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そうさんが書いて下さった、プロジェクトXーミステリ作家バージョンです
「蘇った新本格の旗手-綾辻行人」
(文章の無断使用、無断複製は御遠慮下さい )

■「蘇った新本格の旗手ー綾辻行人」■
1992年、ミステリ作家綾辻行人は、そのキャリアの絶頂にあった。
この年、館シリーズ第一期を締めくくる「時計館の殺人」で第45回日本推理作家協会賞を受賞した綾辻に、惜しむことのない賛美の声が寄せられた。
「20世紀最後の天才」「島田荘司の後継者」「日本のミステリの歴史は彼が塗りかえる」。。。
誰もが綾辻の輝かしい未来を信じてやまず、次の著書を待望した。銀座のクラブで毎晩新しいボトルをキープし続ける綾辻の姿があった。

だが・・・95年に「鳴風荘事件」を発行して以来、綾辻の筆はぱったりと動かなくなった。−スランプーそんな言葉で片付けるには重すぎる遅筆ぶりに、あれほどもてはやしていた周囲は潮が引くように綾辻の周りから離れていった。
起死回生とばかりに98年に自らが監修したゲーム「Nightmare Project-YAKATA」も売れ行きは芳しくなく、綾辻の名を口にする者は次第に少なくなり誰も飲みに誘わなくなった。。。

「綾辻行人の作家としての才能は死んだ」。どこからともなく聞こえる噂に、綾辻の眠れない日々が続いた。酒量が増え、一日一本と決めていたはずのタバコも5本、10本と際限無く吸うようになり、一日中窓の向こうの風景に遠い視線を投げる日々が続いた。。。”僕はもう書けないのか?”・・・苦い自問に人知れず涙し、あまりの情けなさに嗚咽が止まらなかった。好きなバイクも乗らなくなり、ただ家にこもる日々が続いた。。。

妻であり作家仲間である小野不由美は、綾辻の苦悩していた時期を今も鮮明に覚えている。
”それはもう見ている私もつらかったですよ。あんなに生き生きとミステリを書いていた彼が、書きたくても書けなかったんだから。。。
夜中ふと目覚めると、隣に綾辻がいないんですよ。
書斎に灯がついているから見にいったら、デビュー作の十角館殺人事件を書いた時の資料用ノートを必死で模写してたんです。
そうすることであの時の自分が取り戻せるかのように充血した目で模写に集中している綾辻の姿に、もうたまらなくなったこともあります・・・”

”もう一度でいい。長編ミステリが書きたい”
綾辻の慟哭にも似た願いが神に届いたのであろうか。
ある日、一社の出版社から原稿の依頼が届いた。差出人の名前は郡司聡。当時創刊したばかりのKADOKAWAミステリの編集長である。
”綾辻先生の連載に、うちの船出をかける”
郡司の真剣なまなざしに、綾辻は揺れた。
”書きたい。しかし、今の自分に出来るだろうか。。。”
目の前に自分の作品に部署の命運を託すと言ってくれる男がいる。
これに応えなければ自分はもう作家としての資格は、無い。
腹をくくった。「やります。僕に任せてください」

綾辻の苦闘が始まった。月刊であるため〆切りは絶対守らねばならない。
時間との闘い。自らの才能への疑念。長期間書いていないブランク。
その全てに、砂を噛むような想いで耐えた。”僕は、推理小説作家だ””死んでもいい。もう一度だけ書いてみせる”
頭の中に浮かぶイメージをPCの上でなぞる。そこから具体的な文章を肉付けする。気の遠くなるような作業だったが、じりじりと自分の文章が戻ってくるのが分かった。絶望の闇の向こうに一筋の希望が、見えた。

最後の連載を終えた2002年5月。郡司から単行本化のGOサインが出た。
綾辻行人の7年ぶりの長編。
タイトルは「最後の記憶」。しかしまだ問題があった。
初版発行は同年8月30日。それまでに一つでも大型書店のスペースを確保したい。そうしなければ売れるという保証は無い。暑い夏の日差しに汗を流しながら自分の本の為に頭を下げてくれるKADOKAWAミステリの部員の姿に、胸が暑くなった。自分だけ座って待つ気になれず、綾辻は自ら書店を回り、自分の新書を置いてくれと頭を下げた。

「最後の記憶」は売れた。綾辻行人の7年ぶりに長編であり、かつデビュー15周年を飾る作品として本格ミステリファンは書店に列をつくり初版を求めた。
”綾辻先生の本を待ってました””これからも期待してます!”
読者からのハガキに涙が零れた。
これからも一ミステリ作家として書きつづけることを心に誓った。。。 久しぶりに愛車のバイクにまたがりツーリングに出かけた。闇が晴れた早朝だった。そして7年の月日が報われた瞬間だった。。。

2003年秋に綾辻は館シリーズの最新作「暗黒館の殺人」を発行する予定である。多くのミステリファンはその日を待ち望んでやまない。


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ps この作品はかなりフィクションが混在されています。ご覧になった方でご不快に思われた方がいましたら、深くおわび申し上げます(−−;

byそう
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