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民間伝承に題材を取ることも多いエロール・ル・カインの絵本
繊細で美しい絵は、それだけでも幻想の世界に招き入れてくれます

エロール・ル・カイン絵本作品■
アーサー王の剣」エロール・ル・カイン(灰島かり訳)ほるぷ出版(2003/09)

エロール・ル・カインの描いたアーサー王物語。これは27歳の時の作品で、これがデビュー作となり、一流の絵本作家として認められるようになったのだそう。湖の姫にもらった剣・エクスカリバーはどんな願いも叶える魔法の剣。アーサー王が命じれば道しるべにも、雨傘代わりにも、日よけにも、時には船にもなり、なんと宴席ではつまようじになるというのが可笑しいです。後の絵とはかなり違う骨太なタッチですが、落ち着いた色調の絵が、どことなくケルトの雰囲気を出しているようです。

キャベツ姫」エロール・ル・カイン(灰島かり訳)ほるぷ出版(2002/03)

ケイト・グリーナウェイ賞佳作。怒りんぼうの王様は、ある日森の中を散歩している時、金とピンクの縞模様のユニコーンを連れた小さな男に出会います。森のあるじが王様の恥ずかしがり屋のお姫さまを妻に望んでいると言うのですが…。口に出した悪口が全て本当になってしまうという物語は、エロール・ル・カインのオリジナル。どことなくジョン・ラスキンの「黄金の川の王様」を思い出します。一番印象的だった絵は、やはり表紙にもなっている野菜になったお姫さまたちでしょうか。

サー・オルフェオ」アンシア・デイビス文 エロール・ル・カイン絵(灰島かり訳)ほるぷ出版(2004/11)

最愛の王妃・ヒュロディスを不気味な大王に突然奪われたサー・オルフェオは、竪琴だけを持って城を後にし、ようやく王妃の居所を掴んだ時、大王の前で竪琴を弾くことに… というケルトの伝承の中に伝えられるサー・オルフェオの物語。特有の縄目模様など、そこここにケルトの香りがすると思えば、エロール・ル・カインはアイルランドに伝わるケルトの文様で装飾された古い手書きの聖書「ケルズの書」から、模様や構図を借りたのだそう。クラシックな雰囲気が素敵です。

シンデレラ または、小さなガラスのくつ」シャルル・ペロー著 エロール・ル・カイン絵(中川千尋訳)ほるぷ出版(1999/05)

細かく描きこまれたドレスがとても瀟洒で、まるで冒頭でシンデレラが刺している刺繍の描き出す模様のようです。ねずみの馬やトカゲのおつきの者たちが元の姿を彷彿とさせるのも楽しいですし、馬に変身するねずみや、お姫さまから灰かぶりの姿へと変わっていくシンデレラのシーンも素敵。絵はカラーとモノクロで、モノクロの絵もアールデコ調で素敵です。特に城に向かうシンデレラの馬車が池に映っている場面が好き。

白猫」エロール・ル・カイン再話・絵(中川千尋訳)ほるぷ出版(2003/07)

シャルル・ペローと同じ17世紀末のフランスの女流作家・オーノワ夫人の書いた3人の王子の物語を、エロール・ル・カインが再話したもの。物語自体はほとんど忘れられていても、ここに登場する白猫だけは今でもペロー原作のバレエ「眠れる森の美女」に登場しているのだそうです。3人の王子たちの様子が同じページで楽しめ、エロール・ル・カインの構成の良さを改めて実感させられます。

いばらひめ-グリム童話より」グリム著 エロール・ル・カイン絵(矢川澄子訳)ほるぷ出版(1975/01)

他の作品と違い、淡い青やピンクが目を惹く作品。お后様の水浴びの場面は、まるで中世の騎士道物語のようですし、お城に招かれた妖精たちの場面は、夏至の夜の妖精の騎行のよう。そして何よりも素敵なのは、冒頭の塔の階段を上っていくお姫さまの絵。物語の世界に迷い込んでしまいそうです。

ね、うし、とら… 十二支のはなし-中国民話より」ドロシー・バン・ウォアコム文 エロール・ル・カイン絵(辺見まさなお訳)ほるぷ出版(1978/12)

新しい暦のために、半神半人のシュン・ユーが選んだのは12種類の動物たち。その最初の動物を牛にするかねずみにするかで、他の動物たちに意見を聞くことになります。どうやってねずみが選ばれることになったのかは読んでのお楽しみ。エロール・ル・カインの絵は他の作品に比べて線が強調された平面的なもの。色合いも浅くあっさりとしているのですが、これがまた中国の物語にとてもよく合っています。

キューピッドとプシケー」ウォルター・ペーター文 エロール・ル・カイン絵(柴鉄也訳)ほるぷ出版(1990/08)

プシケーのあまりの美しさにヴィーナスの神殿はないがしろにされ、怒ったヴィーナスは息子のキューピッドに、プシケーを身分不相応な恋の奴隷にするように言いつけて… というギリシャ神話の有名なエピソード。(アプレイオスの「黄金のろば」) プシケーはいかにもあまり賢くない娘なのですが、それでもどこか憎めない娘です。絵はピアズリーを思わせるようなタッチで、全てモノクロ。それがまたとても美しく、神話の世界にぴったりと合っています。

おどる12人のおひめさま-グリム童話」グリム著 エロール・ル・カイン絵(矢川澄子訳)ほるぷ出版(1980/02)

物語そのものも元々大好きですが、この絵本は本当に素敵。ある意味、絵の方が文字よりも雄弁かもしれません。文字のページの模様にも物語が潜んでいますし、物語が終わった後、お姫さまに待ちぼうけの王子さまたちの絵があるのも楽しく、エロール・ル・カイン作品の中で一番好きな絵本です。

雪の女王」ナオミ・ルイス文 エロール・ル・カイン(うつみよしこ訳)ほるぷ出版(1981/01)

誰もが知っているであろう、アンデルセンの有名な童話。雪の女王の宮殿へと進むゲルダと、天使の場面がとても素敵です。そしてどこかアラビア風の山賊の娘も魅力的。雪の場面と夏の場面の対比がいいですね。

美女と野獣」ローズマリー・ハリス再話 エロール・ル・カイン絵(矢川澄子訳)ほるぷ出版(1984/01)

父を助けるためにケダモノの城へと向かう末娘・キレイさんの物語。野獣に使われている紫色が時には禍々しさを感じさせ、周囲の小物にも同じ紫色が使われて切羽詰ったような雰囲気。それだけに一層、魔法が解けた後の王子さまの服の赤色が健康的に感じられます。

フォックスおくさまのむこえらび」サラ&ステファン・コリン文 エロール・ル・カイン絵(矢川澄子訳)ほるぷ出版(1983/01)

フォックスおくさまと彼女を訪れる沢山の求婚者たちの物語。おくさまが亡くなったご主人のディーテールに固執するのも可笑しいですが、九尾の狐といえば本来中国の妖怪のはずなのに、当たり前のように出てくるのも可笑しいのです。微笑ましい物語に見えますが、実はとても奇妙な物語とも言えそうです。

アラジンと魔法のランプ」アンドルー・ラング再話 エロール・ル・カイン絵(中川千尋訳)ほるぷ出版(2000/06)

亡き父親の弟だという男に不思議な洞窟に連れて行かれた、貧しい仕立て屋の息子のアラジンの物語。アラビアンナイトの中でも特に有名な物語です。この絵本ではペルシアが舞台とされているのですが、その絵はとても東洋的で、むしろ昔の中国のよう。全編に漂う神秘的でエキゾチックな雰囲気がとても素敵ですし、抑えられた暗めの色調とぴったりです。

ハイワサのちいさかったころ」ヘンリー・ワズワース・ロングフェロー文 エロール・ル・カイン絵(白石かずこ訳)ほるぷ出版(1989/07)

赤ん坊の頃から月のむすめノコミスおばあさんにあやされていたハイワサ坊やの物語。インディアンの神話を元にしてロングフェローが詩を書いたものに、ル・カインが絵を描いたようです。この絵のタッチはあまり好きではないのですが、インディアンの物語にはとてもよく似合っていると思いますし、2人が水からのぼる月を眺めながら、戦士と投げられたおばあちゃんの話をしている場面の絵はとても好きです。

キャッツ-ボス猫・グロウルタイガー絶体絶命」T.S.エリオット文 エロール・ル・カイン(田村隆一訳)ほるぷ出版(1988/06)

未読

1993年のクリスマス-びっくりぎょうてん・ふしぎなお話」レスリー・ブリカス文 エロール・ル・カイン絵(北村太郎訳)ほるぷ出版(1988/10)

未読

まほうつかいのむすめ」アントニア・バーバー文 エロール・ル・カイン絵(中川千尋訳)ほるぷ出版(1993/05)

世界のてっぺんの白く凍てついた国で、そこだけ花が咲き乱れ、野原や森や湖が広がる宮殿に住んでいる魔法使いとその娘の物語。ベトナムから迎えた養女のために書かれた絵本は、登場人物や場面ごとに画風が違い、とても不思議な雰囲気です。魔法使いはいかにも西洋風の魔法使いですし、魔法使いの馬は、どことなく「せむしの子馬」。しかし娘はまるで昔の日本のお姫さまのよう。絵もまるで屏風絵を見ているようです。

こまったこまったサンタクロース」マシュー・プライス文 エロール・ル・カイン絵(岩倉千春訳)ほるぷ出版(1992/10)

未読

アルフィとくらやみ」サリー・マイルズ文 エロール・ル・カイン絵(ジルベルトの会訳)評論社(2004/12)

未読

ハーメルンの笛吹き」サラ&ステファン・コリン文 エロール・ル・カイン絵(金関寿夫訳)ほるぷ出版(1989/11)

穀物倉がが並んでいるせいか、町のどこもかしこもねずみだらけのハーメルンの町に、ねずみを追い払ってくれる男が現れて… という物語。これは1284年6月、突然ハーメルンから130人の子供が消えてしまったという実話がグリム兄弟によってい再話されたものなのだそうです。物語は怖いですが、ねずみだらけの町に困りきった人々など、人々の表情はくるくると変わり、絵はとてもユーモラス。

ぼくのいもうとみなかった?」マシュー・プライス文 エロール・ル・カイン絵(岩倉千春訳)ほるぷ出版(1993/10)

未読

魔術師キャッツ-大魔術師ミストフェリーズ マンゴとランプルの悪ガキコンビ」T.S.エリオット文 エロール・ル・カイン絵(田村隆一訳)ほるぷ出版(2003/09)

未読


エロール・ル・カイン解説作品■
イメージの魔術師 エロール・ル・カイン」エロール・ル・カイン画 ほるぷ出版(1992/08)

エロール・ル・カインの画集とされていますが、むしろムックと言った方が相応しいかも。エロール・ル・カインの紹介と共に絵が沢山収録されていて、未訳の絵本の絵も見られます。時には純粋に西洋風だったり、時には東洋風のエキゾチシズムを感じさせたり、その絵柄の雰囲気は自由自在。シンガポールで生まれ、インドに育ち、その後英国に渡ることになったエロール・ル・カインならではの感覚なのでしょうね。しかもどの作品にも濃やかな気配りがされており、文章以上に絵の方が雄弁だと言えそうなほどです。
ヨーロッパ的色調の濃いハリウッド映画を見て育ち、そこから様々な影響を受けたエロール・ル・カイン。「ニールセンやデュラック、ピアズリーの作品を初めて見たとき、それに影響されるというより僕はこう感じました。これは僕の世界だ。前から知っていた世界だと。」「僕はいいところだけをかすめとるカササギみたいなものです」という言葉が印象的でした。

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